暗い湯船の中へ、剥れかけた記憶のウロコを流すように

date. 2001

(1)

リラクゼーションの方法として、電気を消して37℃くらいのお湯をはった湯船につかる
月明かりがあれば何も怖がることはない
暗い中で血の廻りがよくなるせいか、皮膚がお湯なんじゃないかなと思う。さかなにまで遡れるんじゃないかと思う
気持ちいい。楽ちんだ

突然、窓から車のヘッドライトの明かりが飛び込んだ。まるで映写機のように、彷徨える亡霊の影を映し出した
感覚遮断の幻影

「君の大事な時間を私はもらってしまったんだ。申し訳ない」

あなたは僕じゃない。
そんな当たり前な違いを認識するために、君を認める瞬間をとめてみようとしていたんだ
君は変わっていくのに。僕も変われるのに。時は流れているのに
変化の中にこそ、不変が見つけられるってことを、君は気付いていたのかな
僕は、やりかたを、間違えていたみたい

切り取った幻影は、何故かこの頃、美しすぎる
思い出に変わったんだと思う
だから、忘れよう。と思う
僕のウロコとひきかえにしてね

(2)

体を洗う時に、電気をつける。弱酸性のボディソープで全身を洗い、シャンプーをする。トリートメントも、必ず、する
頭から熱いシャワーを浴びながら、はっきりと、明るいところで見る幻影もある

「俺、今から、変わるから」

自分のことを「俺様」という彼が、そんな言葉を洩らした意味の行き着く先は、すぐにピン!とわかった
可笑しいね。その朝、キスをして、笑顔で見送ったんだけどなあ

その後もずっと、彼は言い続けた
「それでも、今、答えは出せない。君を選ぶことになったらきっと後悔することになるかもしれないけど。」
「それでも、幸せかい?」

彼を愛したことが僕の罪なら、
彼の最大の罪は、僕に、きちんと別れを言わなかったことだ

僕は待てなかったよ
「幸せってなに?もう、おしまいなんだよね」
そのとき、僕ははじめて、人を殺したいと思ったんだ

どうでもいい幻影は、すぐ水に流せる
その日の疲れを熱いシャワーで洗い流すみたいに、
きれいさっぱりと忘れよう、と思う
人生を棒に振りたくはないの


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