微熱

date. 2001.8

ウーロン茶のペットボトルを抱えている。2.5リットル。
今からこれを全部飲んで、体の中から毒素を洗い流すのだ。熱もある。排泄する時に痛みを伴うが、抗生物質の力も借りて、辛く悪いモノは早く取り除きたい。

「歯軋り、するんだね」
腕枕をした彼が言う。私は彼の腕を私の首の下と枕の間に置き直す。
「そう?寝ているからわからないわ」
腕と枕の上にあった頭を、彼の肩のほうにずらして、私は彼に抱きつく。

喪失感や孤独。まだ寂しいんだろうか?私は、今も呻き声を上げているんだろうか?そんなものをいつから抱え込んでしまったんだろう?
心当りがないわけではない。決定的瞬間があるとするなら、あの時、モウチョットシアワセニナリタイと望んだあの時、私は今までの大きな幸せの喪失と引き換えに飛び出したあの時だと思う。
熱望したそれは、結果的に手に入れることができなかった。だからといって、もう求めやしないとか、ましてフコウだなんて思ったことはない。今までみたいにシアワセという言葉を軽々しく口に出すことはできなくなっただけだ。
失ったから、自分を強く造り直すチャンスになったんだと、たとえ孤独を抱える後遺症が残ったとしても、そんなささやかなプライドだって持てるようになった私だった、はずなのに。

「近くにいればいるほど終息感を感じるんだ」という過去のあの顔が、今、彼と重なる。それ以外は沈黙してしまったあの人のその言葉を、終ってしまった理由として消化しようとした記憶の波が打ち寄せる。真夜中の砂浜に足をとられた私は、息苦しくなる。ひと呼吸置いて返事をする。
「そう?昔もそんな風にいわれたことがあるのよ」
「そいつの気持ちはわからないでもない。それは正しいよ」彼が頷く。
「不安な気持ちを感じる。強く。」
深く暗い波にさらわれる。
彼は私の手を強く手を握っている。私も握り返している。

ちょっと前の、今の君でいいよ、と、今現在の、君は変われるよ。
その狭間で私はどこに向かって泳いでいくんだろう。

まだ可能性があるんだろうか?いや、そんなことはたいしたことじゃない。変わらないことはないということを、私は十二分に経験してきた。それよりも、私は変わっていなかったの?何にも変わらないままで、彼を欲したの?ただ助けばかりを求めていたの?

横になってうつらうつらしているうちに、夢をみていたようだ。熱もいつか下がるだろう。


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