雑草の中で

date. 2008.1

朝まで眠れるように、僕は薬を飲む。夢に夢を持っていかれないように。何も夢を見なかったと、静かに起きられるように。

広場の真ん中にアパートメントが建っている。東西南北見渡せそうな広い敷地だ。遠く東のほうには小高い山がみえるが、視界を本気で遮るようなものではない。僕はその二階建てアパートメントの二階のA番の部屋にいる。全体が朽ちかけていて、まだ住んでいる人がいるのが夢のようだ。六畳の畳の間からは雑草が生えている。キッチンは土だらけになっていて、ここにも雑草や苔が膝をくすぐる高さまで生えている。その中にテーブルがひとつ。椅子が四脚。一つの食器棚と、色褪せたカレンダーが貼ってある。今年のを張り替えた記憶はない。
靴を履いたまま椅子をひとつ引いて、僕は背もたれにもたれかかる。背筋はかるく曲がっている。いつから僕はここにいるのだろう。窓からみえる太陽は真ん中にあって、時間の感覚はあってないようなものだ。少し背筋を伸ばして座りなおす。彼があのドアから顔を出すのを待っている。足をぶらぶらさせてセイタカアワダチソウを蹴飛ばしながら、僕は彼がくるのを待ち続けている。

彼は、コンビニエンスストアの袋を持ってやってくる。「こんな雑草の中で」と言って僕の斜め向かいの椅子に座る。袋の中から、カップラーメン、チョコレートや魚肉ソーセージを取り出す。「プリンもあるよ」と、彼は言う。
プリンが好きなのを何故知っているのかいぶかしがりながら「はい」と、受け取る。
「スプーンないかも」
「いいよ」
指でプリンをすくい取る。無心で食べ始める。しばらくして食べ終わり、斜め前をみると、彼の姿はない。テーブルの上も綺麗に片付いている。プリンのカップがただひとつ残されているだけだ。

陽は西の方向に傾き始め、キッチンを茜色に染め変える。色の変化に僕はびくびくして、椅子を倒しながら立ち上がる。
確かここは彼と自分が住んでいる部屋のはずだと思い、よろよろと立ち上がり、雑草の生えた畳の部屋へよろめきながら座り込む。今日も彼を捕まえられなかったことを思い悩み、明日は必ず夜まで一緒にいようと伝えようと考える。
それは造作もないことだと考えている。彼はずっと昔から僕を知っているはずだから。
毎日いつの間にかいなくなることも深く考えずに。


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