冬・・・羽化

date. 2008.3


朝から吹雪。陽がのぼるにつれて、雪は降り忘れたかのように、いつの間にか止んでいた。
灰色の空から陽射しがこぼれる不思議な空。それはまるでいつかの心の迷いを映しているようでもある。水色の澄んだ空に染み付いた灰色の雲。僕はどうしても友人を探すように、灰色の空を見つめてしまう。欠片を二枚背にまとって、‘ドコカシッテイルバショ’へ飛んでいきたいと願う。

両親も祖母もいないこの家は、僕を隠す白い繭となる。四方八方一定の法則によって、細くぬめぬめと濡れて光る糸を吐き続ける。美しい楕円形のシェルターができるまで、吐き続ける。もはや糸なのか唾液なのかそれとも声にならぬ叫びなのか知る由もない。
日が暮れるとその繭は姿を消す。誰かが触れようとしただけで、外廓は砕け、そこには我が家があるばかりだ。

繭の中では、女になる。イヤホンから聞こえる恋人の声を子守唄代わりに聞いている。眠るのではない。両目ははっきりと開いたまま唄を聞くのだ。時々瞬きをする。全てを肯定するかのように、瞼をゆっくりと閉じて開ける。次に瞳を開いた時、繭の中にいる自分と恋人の声で、僕は安心する。そして次に繭がなくなっていても、子守唄と毎日の喧騒に、僕は蛹になって安心する。もう翅を持つ姿に変わらなくてもいいの、あなたの声を聞くだけでいいの。

一瞬夢を見た。ああ、それだけでいいはずがない。


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