四辺の角

date. 2012.3

「こんにちはー宅急便ですー」
小さな荷物が届く。ああそうだった、メールで連絡がはいってたっけ。
僕の過去が、荷物になって届く。

あらためて目にするまで、忘れていたもの。シルクのスカーフにパールのネックレス。
たしか、洋服箪笥の右側の上から2番目の引き出しに、しまっておいたものだ。
ああ、これは大事にしていたものだったのに。
忘れて出てしまったなんて、僕も、随分あわてていたものだ。
そんなものを身に付けて出かけるようなことも、出て行ったあの日以来、していない。

それに、数枚の写真。

10年も前だ。ショートカットの僕と君が写っている。
君といつでも手を繋ぐことができると思っていた頃だ。
この写真、僕も持っているよ。たぶん、もう、眺めることはない写真だけど、持っているよ。
荷物の中に埋もれた写真を、一枚一枚、取り出して眺める。
これが君のけじめのつけ方だ、君のけじめは僕の胸をしめつける。

そうなんだよ/絵になる一瞬が大事なのさ/私そのために生きてる
だから私の写真一枚だけとっておいて/そいで思い出さずに空想して/私の一生を
―真っ白でいるよりも(谷川俊太郎)―


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